日記のようなもの

都合の悪い部分はフィクションとします。

小雨

クーラーを点けたまま寝たので9時頃に一度起きてリモコンの電源ボタンを押してから毛布にくるまった。この部屋の大きさに対してクーラーの弱風モードは十分過ぎるくらいだった。

意図的な二度寝三度寝の末、14時過ぎ頃に焦りを感じて起き上がった。今日は予定が山積みだった。目の周りで硬くなった老廃物を洗面所で洗い流して素麺を茹でた。我が家は揖保乃糸大好き家族だ。揖保乃糸以外は食べる気にもならない。家族というか、僕だけなのかも知れないけど。素麺が茹で上がったタイミングで母親が帰ってきたので目玉焼きをお願いした。目玉焼きは卵二つ分。そして麺つゆをかけて食べるのが僕のルールだ。

豪華な朝食を済ませて本日第一の予定を遂行すべく着替えを始める。3年くらい前に派遣のバイト用に買ったような気がするスラックスのような黒のズボンと無印良品で一目惚れして2色買いしたけど最近は白の方しか着ていないシャツのようなロングTシャツを着て近所の高校へ向かった。外は薄く雲がかかっていた。ストレスが溜まっている夜に酒を飲みながら音楽を聴き、タバコを吸い踊っている道の昼の姿に新鮮味を覚えつつタバコを咥えた。高校の敷地境界のフェンスに選挙のポスターがあったのでそこで当たりをつけて投票に向かった。

本日第二の予定は映画『天気の子』を観る事だったが起きるのが少しだけ遅れてしまったので後回しにして一度家に帰り準備をして自転車で駅に向かった。池袋に着き駅から一番遠い出口から出てそこから一番近いコンビニの二階にある喫煙コーナーでタバコを吸って時間調整を図る。二本目の途中で予定時刻の5分前になったので火を消して捨てた。どうせ貰ったタバコだし、メンソールは好きじゃないし、別にいいし。差し入れに16個入りのプチシューを買って友人の勤める美容室に向かった。いつもは僕の予約の時間には手が空いてる彼女も日曜だからなのかまだ先客の髪を乾かしてる途中だった。新人らしき女性に案内されて椅子に座らされヘアカタログで就活に通用しつつあまりピシッとし過ぎないくらいの髪型を探していると友人が先客の担当を他のスタッフと入れ替わり僕をシャンプー台へと案内した。

彼女は僕が来るといつも職場とは思えないほどフランクに会話する。他のスタッフに聞かれちゃマズいんじゃ、、と心配する事がしばしばある。彼女は声が大きい。彼女は今の仕事を辞めたいとよく言っている。そういう癖に今の仕事はもう4年目だ。君はきっと結婚するまではこの仕事を辞めないだろうと僕は密かに確信している。そもそも結婚できるのかという事も僕は密かに心配している。

1時間と少しで髪を切り終わり友人に見送られて店を出た。電車でさいたま新都心に向かった。いつも通り他のお客様より一割手抜きの仕事をして貰えたお陰で最後の上映より一個前の回に間に合いそうだ。

公開して間もないこの作品はレイトショーにも関わらずほぼ満席だった。両隣の客がポップコーンを食べていた。僕は上映中はガムくらいしか口にしないのが美徳だと思うようにしている。金が無いから。少しだけ羨ましかったが我慢した。映画館のポップコーンは高いから。

『天気の子』はとても面白かったし感動した。御都合主義万歳!いいぞ!もっとやれ!と思わせるようなストーリーだった。新海誠監督作品は音楽の入り方が天才的だ。鳥肌が立つくらい派手で青臭い演出がたまらない。

映画館を出るとき小太りの中年男性が「悪くなかったなぁ」と言っているのが聞こえたので唾を吐きかけてやろうかと思った。感想は人それぞれと思い我慢しつつ密着性の高いイヤホンを装着して人の少ない道を選び喫煙所を探した。モールの喫煙所は閉まっていた。まだ終電の時間には余裕があったのでさいたまスーパーアリーナの方の喫煙所に向かった。

空は曇っていた。駅周辺の高層ビルの赤色灯が雲の中で淡く灯っていた。雲が低く感じた。

実家の最寄り駅に着いた。小雨が降っていた。

「僕は一人で大丈夫」と言えるようになるにはまだもう少し時間が必要だと感じた。情けないけどまだ決別できていない。本当に情けない。

家に帰って本日第四の予定「履歴書作成」を遂行する。